御恐のゆっくり怪談朗読

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【ゆっくり怪談朗読】走る男【第9話】


【ゆっくり怪談朗読】走る男【第9話】


走る男

そうタイトルだけ記された、
何とも斬新なパッケージのビデオ。

「どうせ100円だし暇つぶしになればいいか…」
とレンタルしてみた。

Aは自宅に帰ると早速ビデオを再生した。

タイトルも出ずに、
いきなりホームレスのようなボロボロの服を着た
痩せ型の男が走っている映像が映し出された。

「ん…? 手に何か持っている… ノコギリだ。」
「何でノコギリなんか持っているんだ?」

それにしてもこの男、
こんな全力疾走しているのにバテるどころか汗一つかかず、
スピードを落とす気配さえ一向に見せない。

「ん…? そう言えばさっきからこの男、見たことあるような道を走ってないか?」

Aは段々と胸騒ぎがし始めた。

…嫌な予感がする。

「あれ? この道は…? この角を曲がったら…?」
次のシーンで胸騒ぎは確信になった。

ああ、ヤッパリだ!
この男は家に向かってきている。

気付いたときには男は家のすぐ前まで来ていた。

そして、いつの間にか画面は男の視点になっていて、
画面はAが住んでいる
古いアパートの二階部分を映している。

Aは急いでベランダから外を覗くと…いる。
あの男が。

男は迷わずベランダの柱をノコギリで切り始めた。

訳の分からないAはとりあえず、

「おい! なにすんだよ! やめろよ!!」
と男に怒鳴った。

すると男はAを見上げた。

画面からは確認できなかったが、
男は両目がロンパッてカメレオンのようだ。

そしてボロボロの歯をむき出しにしてニヤッと笑い、
視界から消えたかと思うと、
階段をゆっくり上がってくる音が聞こえる。

ヤバい! ここに来る!」

鍵を閉めようと玄関に急ぐが、男はもうそこに立っていた。

居間まで追いつめられ、
男はノコギリを振りかざそうとした時…
Aはとっさにリモコンでビデオの停止ボタンを押した。

その瞬間、男は居なくなっていた。
ノコギリもない。

Aはすぐにビデオから
テープを引っ張り出してゴミ箱に捨てた。

Aは部屋のベランダの柱を確認すると、
深々とノコギリの痕が残っていた。